研究統括責任者の金井隆典教授(慶應義塾大学医学部内科学・消化器)の最新の研究論文が、6月11日に英科学誌「NATURE」電子版に掲載されました。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2020/6/12/28-70380/
自律神経が紡ぐ新しい炎症抑制メカニズムの解明-迷走神経を介した感染症・がん・炎症性腸疾患の治療に新たな光-
慶應義塾大学医学部
日本医療研究開発機構
慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)の金井隆典(かないたかのり)教授、寺谷俊昭特任講師、三上洋平助教を中心とするグループは、同外科学教室(一般・消化器)の北川雄光教授、生理学教室の岡野栄之教授、微生物学・免疫学教室教授の吉村昭彦教授、京都府立大学の岩崎有作教授、九州大学の津田誠教授、金沢医科大学の谷田守准教授、理化学研究所の岡田峰陽チームリーダー、早稲田大学理工学術院の服部正平教授(研究当時)、東京大学の井上将行教授らと共同で、生体には腸管からの腸内細菌情報を肝臓で統合し脳へ伝え、迷走神経反射によって腸管制御性T細胞(pTreg)の産生を制御する機構が存在することを世界で初めて明らかにしました。
今回、マウスにおいて、pTregの分化・維持に極めて重要とされる抗原提示細胞(APC)が腸管粘膜固有層の神経の近傍に多く存在することを明らかにし、さらに腸管APCで高発現の神経伝達物質受容体を特定しました。マウスおよびヒトのAPCをこの受容体の抗原で刺激すると、pTregの分化・誘導に関わる遺伝子の発現が亢進し、腸管粘膜固有層の神経からの伝達を腸管APCを介して受け取り、腸の免疫が抑制される仕組みが示されました。また、マウスの肝臓から脳幹への左迷走神経を人為的に遮断すると、腸管APCを介して亢進される遺伝子発現が障害されることにより、pTreg量が著しく減少することを明らかにしました。さらに、その結果、腸炎マウスモデルでは病態が増悪することがわかりました。これらの結果から、「腸→肝臓→脳→腸相関による迷走神経反射」がpTreg量を調整し、腸の恒常性を維持していることが示されました。
この発見は、腸内環境の変化に起因する現代病(炎症性腸疾患、メタボリックシンドローム、うつ病など)、がん、COVID-19を含む消化管感染症などのさまざまな病気の病態機序の解明や新規治療法の開発に繋がるものとして期待されます。
本研究成果の詳細は、2020年6月11日(英国時間)に英科学誌『Nature』電子版に掲載されました。